能ってなんぞ?

どもです、僕です。皆さん、能って知ってますか?

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こんなんです、こんなん、よくわからない?まあいいです。そのためにこの記事書いてるんで。今回はクソ真面目な記事です。

 

能/能楽とは

  1. 能楽とは、室町時代より600年以上演じ受け継がれてきた、日本を代表的する舞台芸術です。 言葉や節回しは古く室町時代の様式を今に残しています。 
    公益社団法人 能楽協会 | 能楽とは
    www.nohgaku.or.jp/encyclopedia/whats/ 

一般的には能というワードで普及していますが、狂言(後述)と合わせ、能楽という名称が正しいでしょう。室町時代世阿弥という凄い人が現れて能を大成させたとされています。それ以前にも舞台芸能は多種存在していたのですが、幽玄(後述)というキーワードの下、洗練された芸術性と芸能における優位性を獲得したのは何よりも能でした。

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能舞台の説明 | 銕仙会 能楽事典

舞台はこんな感じです。奥に囃子方、右手に地謡(バックコーラス隊)が並んで座り、中心でシテ(主人公)とワキ(脇役)がストーリーを進めます。舞台の流れをものすごく平べったくいうと、お囃子に合わせて登場人物たちが歌いながら話を進め、適宜バックコーラスを入れて踊るだけです。オペラとかミュージカルみたいなのを想像してくれればわかりやすいと思います。歌いながらという点がミソです。

能の台詞部分をといいます。謡は全て古語で、特に歌としての要素が強い、つまり音楽になっている部分の謡は、より洗練されたものを求めて和歌の手法が多く使われます。基本的に普通の人には意味がわかりませんし、下手すると何を言ってるかわかりません。ですが音楽として聴けばその美しさを感じ、現代語訳と合わせて解釈しながら聴けばその奥深さがわかることでしょう。

 

『羽衣』を例に

実際の演目から理解すると良いでしょうか。人気の演目の一つ、羽衣です。

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羽衣 | 銕仙会 能楽事典

ストーリーを平べったくいうと、三保の松原(静岡県の名勝です)に美しい衣(天女が飛ぶ為に必要な、肩のあたりでフワフワしてるアレ)が落ちてくる→漁師が拾う→天女が降りてくる→衣を返す→お礼に踊って天に帰る。これだけです。この演目の元ネタはいわゆる羽衣伝説という天から衣が降ってきて天女とアレコレするっていう言い伝えです。この話は全国にあるようで、漁師がこのまま衣を返さないで天女と結婚しちゃうとかいうパターンもあるらしいです。気になったらwikipedia

羽衣伝説 - Wikipedia

ストーリーは掴めたところで、実際にどう進行していくのか。謡の一部分を抜き出してイメージをさらに膨らませましょう。まず漁師(ワキ)が天女(シテ)に衣を返す場面です。この場面ではストーリーを観客に知らせる為にお囃子やバックコーラスは静かに、そして動作もゆったりと、登場人物の声だけが響きます。

ワキ「いかに申し候。御姿を見奉れば。餘りに御傷はしく候程に。衣を返し申さうずるにて候(いやいや、君の姿を見てるととても痛々しい、衣を返してあげましょう)

シテ「あら嬉しや此方へ賜はり候へ(なんと嬉しい。こちらへお渡しください)

ワキ「暫く。承り及びたる天人の舞楽。只今此処にて奏し給はば。衣を返し申すべし(ちょっと待て、よく知られている天人の舞をここで舞ってくれるなら衣を返しましょう)

シテ「嬉しやさては天上に帰らん事を得たり。この喜びにとてもさらば。天人の御遊の形見の舞。月宮を廻らす舞曲あり。只今此処にて奏しつつ。世乃憂き人に傳ふべしさりながら。衣なくては叶ふまじ。さりとては先づ返し給へ(嬉しいことです、天に帰ることができます。とても喜ばしいので、私がここに降った形見として、月の都の宮中の舞楽を今ここで舞い、世のなかのつらい人を癒しましょう。しかし、衣がなくては舞えません。まず先に返してください)

ワキ「いやこの衣を返しなば。舞曲をなさでそのままに。天にや上り給ふべき(いや、この衣を返せば、舞わずにそのまま天に昇ってしまうでしょう)

シテ「いや疑いは人間にあり。天に偽りなきものを(いいえ、疑いの心は人間にのみあるのです。天人には偽りはないです)

ワキ「あら恥かしやさらばとて。羽衣を返したまふれば(ああ恥ずかしい、すぐに衣を返しましょう)

現代語訳は厳密じゃないです。僕は工学部なので古文訳に詳しくありません。そして次が舞に至る場面です。静かな場面から徐々にお囃子が入り、シテとワキの掛け合いから地謡が入り、場を盛り上げます。

シテ「少女は衣を著しつつ。霓裳羽衣の曲をなし(天女は衣をまとい、霓裳羽衣の曲をなし)

ワキ「天の羽衣風に和し(羽衣は風に靡き)

シテ「雨に潤う花の袖(雨に潤う花のような袖を翻し)

ワキ「一曲を奏で(一曲を奏でて)

シテ「舞うとかや(舞うのです)

地謡東遊の駿河舞。東遊の駿河舞この時や。始めなるらん。それ久方の天と云うは。二神出世の古。十方世界を定めしに。空は限りもなければとて。久方の。空とは名づけたり

シテ「然るに月宮殿の有様。玉斧の修理とこしなえにして

地謡白衣黒衣の天人の。数を三五に分けて。一月夜々の天少女。奉仕を定め役をなす

(続く)

シテと地謡(バックコーラス隊)の掛け合いの元、音楽のような謡が続き、シテは徐々に舞始め、囃子が徐々に盛り上げていきます。(ちなみにこれ、台詞が何言ってるかわかりませんよね。こんなもんです。)そして盛り上がりの最高潮で台詞、地謡無しの純粋な舞、序ノ舞が行われます。純粋な舞にもいろいろと種類があるのですが、これは天女が舞う美しい舞です。そして囃子と舞もどんどん盛り上がり、ラストスパートで地謡が入り、舞台が佳境に入ります。

地謡東遊の数々に。東遊の数々に。その名も月の。色人は。三五夜中の。空に又。満願真如の影となり。御願円満国土成就。七宝充満の宝を降らし。国土にこれを。施し給ふさる程に。時移って。天の羽衣。浦風にたなびきたなびく。三保の松原浮島が雲の。愛鷹山や富士の高嶺。かすかになりて。天つ御空の。霞に紛れて。失せにけり

そして天女(シテ)は舞台から降り、そのまま終わり、というのが一連の流れです。

 

どうでしょうか。イメージできました?能の舞台ってどれもこんな感じです。気になるようでしたらyoutube西脇市で行われた羽衣が公式に上がっています。最後のラストスパートだけでも見る価値はあると思います。謡が聞き取れない、意味わからないなどでしたら全文と謡はネットにあるので探してみてください。

観月薪能にしわき[能]羽衣(2010.08.30) - YouTube

 

能の魅力

能の魅力とはどこにあるのでしょうか。僕が感じる能の魅力を、浅学ながらいくつか上げてみようと思います。

    1. 舞台芸術としての洗練性
      ミュージカルでも同じことが言えるのではないでしょうか。とても静かでゆったりとした舞台進行から見せ場に至り動きが大きく*1なる。その構成も掛け合いやバックコーラス、舞を上手く使い観客を引き付けます。オペラのように舞台芸術の一つの完成形として楽しめます。
    2. 謡の音楽としての美しさ
      明確に音階を定めない謡ですがそれゆえに歌い方が幅広く、羽衣の最後ように美しく歌い上げる謡から、悲しさを表現したたっぷりと歌い上げる謡、戦を意識した力強い謡など、多岐に渡ります。謡のお稽古のみをする素人が多くいるように、音楽としても楽しめます。
    3. 全体の想像性
      先ほど幽玄という言葉を出しました。能を貫くキーワードです。
      幽玄
      ゆうげん
      芸術論用語で美的理念の一つ。本来中国の典籍に見出される語で,原義は老荘思想や仏教の教義などが深遠でうかがい知ることができないことを意味した。『古今和歌集』真名序や本朝続文粋』など日本の文学作品でも,神秘的で深い意味があるらしいが明確にはとらえられないという意に用いている例がある。-ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
      実際僕が感じているものが「幽玄」であるのか、それはよく分からないですし、あまり大きなことは言いたくないのですが、「観客が想像する余地」というのが近いものではないかと思います。
      能では泣くことを表現するとき目を手のひらで覆う動作をします。この動作に対して僕達はどのように泣いているのか、解釈をする必要があります。メソメソ泣くのか、声を上げて大泣きするのか、それとも自然と涙が溢れるように泣くのか。テレビドラマのように泣いたらその泣き方が一目でわかるわけじゃありません。観客の心持ちがシテの心を決めるのです。美しくありませんか?

とても偉そうに言ってしまいましたが、あくまで僕個人の感性としてお許しください。他にもこういう魅力がある、面白さがあるなど、ありましたらぜひ聞かせてください。

 

最後に

少しでも能に興味を持ってくれたら嬉しいです。ぜひ一緒に能を見に行きましょう。またT-ACTなどの形式で能楽普及のためのワークショップや勉強会を開くことも予定しています。サークルではお稽古することもできます。*2

ここまで読んでいただきありがとうございました。一人でも多くの人に能を知ってもらえるよう、能関連の記事はちょいちょい書こうと思います。

 

 

 

 

 

 

この記事は少し編集してどっか載せるかも。

*1:実際には前段階におけるゆっくりした動きとのギャップで大きく見えるだけですが。

*2:実は一番上の画像は僕の先生です。